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クリニックの開業は、多くの医師にとってキャリアの一つの大きな目標です。しかし、その実現には多額の資金が必要となり、資金計画は開業における最も重要な課題の一つと言えるでしょう。
診療科や開業スタイルによって必要な資金額は大きく異なりますが、適切な知識を持って準備を進めることで、資金調達の成功確率は格段に上がります。本記事では、クリニック開業に必要な資金の内訳から、具体的な調達方法、そして融資を成功させるためのポイントまで、網羅的に解説します。
クリニック開業に必要な資金の総額と内訳

クリニックの開業に必要な資金は、一般的に5,000万円から1億円程度とされていますが、導入する医療機器によっては2億円を超えるケースも珍しくありません。これらの資金は、大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分類されます。
それぞれの内容を正しく理解し、ご自身の開業プランに合わせた資金計画を立てることが重要です。
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開業資金は「設備資金」と「運転資金」に分けられる
「設備資金」とは、クリニックの建物や内装、医療機器、什器など、開業時に必要となる物理的な資産を購入するための資金です。一方、「運転資金」は、開業直後から経営が軌道に乗るまでの間、クリニックを運営していくために必要となる資金を指します。
運転資金の目安としては、少なくとも3~6ヶ月分の経費を準備しておくことが推奨されます。
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資金の種類 |
概要 |
具体的な項目例 |
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設備資金 |
開業時に必要となる建物や設備、機器などを購入するための資金 |
物件取得費 内装工事費、医療機器購入費 什器・備品購入費 |
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運転資金 |
開業直後から経営が安定するまでの運営資金 |
人件費 医薬品・消耗品費 賃料 広告宣伝費 水道光熱費 |
設備資金の内訳と金額の目安
設備資金は、開業資金の中でも特に大きな割合を占める部分です。特に、テナントを借りて開業する場合の内装工事費や、診療に不可欠な医療機器の購入費は高額になる傾向があります。
以下に、一般的なテナント開業における設備資金の内訳と目安を示します。
- 物件取得費(保証金・礼金など):賃料の6~12ヶ月分
- 内装設計・工事費:坪単価30万円~70万円
- 医療機器購入費:診療科により大きく変動(1,000万円~数億円)
- 什器・備品購入費(待合室の椅子、デスクなど):200万円~400万円
- IT関連費用(電子カルテ、予約システムなど):200万円~500万円
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運転資金の内訳と金額の目安
運転資金は、開業してから診療報酬が実際に入金されるまでのタイムラグ(約2ヶ月)を乗り越え、経営を安定させるための「つなぎ資金」としての役割を持ちます。スタッフの給与や家賃などの固定費はもちろん、広告宣伝費なども見込んでおく必要があります。
- 人件費:スタッフの給与、社会保険料など
- 医薬品・消耗品費:診療に必要な薬剤や備品
- 賃料:テナントの家賃
- 広告宣伝費:ホームページ制作費、看板設置費、チラシ作成費など
- その他諸経費:医師会への入会金、水道光熱費、通信費など
【診療科別】開業資金のモデルケース
開業資金は、診療科によって導入する医療機器が大きく異なるため、総額も大きく変動します。例えば、高額なレーザー機器などが必要となる美容皮膚科や、CT・MRIを導入する脳神経外科などは、他の診療科に比べて高額になる傾向があります。
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診療科 |
開業資金の目安 |
特徴 |
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内科 |
6,000万~8,000万円 |
X線装置や内視鏡などを導入する場合、費用は増加する |
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皮膚科 |
2,000万~6,000万円 |
保険診療が中心であれば比較的低コストで開業可能 |
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美容皮膚科 |
5,000万~1億円 |
高額なレーザー機器などの導入により、設備投資が大きくなる |
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眼科 |
4,500万~9,000万円 |
専門的な検査機器が多く、医療機器への投資が大きくなる傾向があります。 |
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整形外科 |
7,000万~1億円 |
X線装置やリハビリテーションのためのスペースと機器が必要になる |
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クリニック開業時の自己資金はいくら必要?
クリニック開業にあたり、融資を検討する場合でも、ある程度の自己資金を準備することは極めて重要です。自己資金は、金融機関からの信頼を得るための証であり、開業後の安定した経営基盤ともなります。
自己資金が開業資金融資で果たす重要な役割
金融機関が融資審査を行う際、自己資金の額は申請者の事業への本気度や計画性を測る重要な指標となります。十分な自己資金を準備していることは、計画的に開業準備を進めてきた証拠と見なされ、融資担当者に安心感を与えます。
また、自己資金が多いほど借入額を抑えることができ、結果として月々の返済負担を軽減し、経営の安定化に繋がります。
一般的に必要とされる自己資金の金額
一般的に、自己資金は開業資金総額の10%~20%程度が目安とされています。例えば、開業資金が7,000万円の場合、700万円から1,400万円程度の自己資金を準備しておくことが望ましいでしょう。
もちろん、これ以上の自己資金を準備できれば、融資審査でより有利になる可能性が高まります。
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開業資金総額 |
自己資金の目安(10%~20%) |
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5,000万円 |
500万円~1,000万円 |
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7,000万円 |
700万円~1,400万円 |
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1億円 |
1,000万円~2,000万円 |
自己資金が少ない場合に検討すべきこと
十分な自己資金を準備することが難しい場合でも、開業を諦める必要はありません。親族からの資金援助(贈与)を受けることも一つの方法です。
ただし、親族からの贈与ではなく「借入」の場合は自己資金とみなされない可能性があります。金融機関に贈与契約書を提出し、資金の出所を明確にする必要があります。
安易に「見せ金」を作ることは絶対に避けるべきです。
クリニック開業における主な資金調達方法

クリニックの開業資金は高額になるため、多くの場合、金融機関からの融資を利用することになります。ここでは、主な資金調達先とその特徴について解説します
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金融機関の種類 |
メリット |
デメリット |
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日本政策金融公庫 |
低金利、長期返済が可能 創業者向けで相談しやすい |
融資実行までの審査期間が比較的長い傾向がある |
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福祉医療機構(WAM) |
長期・固定金利での借入が可能 |
融資対象に要件があり、手続きが複雑な場合がある |
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民間金融機関 |
融資実行が比較的スピーディ 地域の情報に詳しい |
金利が政府系金融機関より高くなる傾向がある |
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」を活用する
日本政策金融公庫は、政府系の金融機関であり、中小企業や小規模事業者の支援を目的としています。特に、これから事業を始める創業者向けの融資制度が充実しており、クリニック開業においても多くの方が利用しています。
「新規開業・スタートアップ支援資金」は、代表的な制度の一つで、最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)の融資を受けることが可能です。民間金融機関に比べて金利が低く、返済期間も長く設定されている点が大きなメリットです。
独立行政法人福祉医療機構(WAM)の融資制度
独立行政法人福祉医療機構(WAM)は、福祉・医療施設の整備を支援するための融資を行っています。こちらも政府系の機関であり、長期・固定での借入が可能な点が魅力です。
ただし、融資対象となる事業や施設に一定の要件があるため、事前に確認が必要です。日本政策金融公庫と並行して相談を進めるのがおすすめです。
民間金融機関(銀行・信用金庫)の融資制度
メガバンクや地方銀行、信用金庫などの民間金融機関も、クリニック開業資金の主要な融資元です。特に、開業予定地の地方銀行や信用金庫は、地域医療への貢献という観点から、融資に積極的な場合があります。
また、医師信用組合を利用できる場合は、一般の金融機関よりも有利な条件で融資を受けられる可能性があります。金利や融資条件は金融機関によって様々ですので、複数の機関に相談することが重要です。
参考:診療所向け貸出商品「みずほクリニックアシスト」 | みずほ銀行
リース契約を活用して初期投資を抑える
医療機器や電子カルテなどの高額な設備は、購入する代わりにリース契約を利用することで、初期投資を大幅に抑えることができます。リースであれば、購入する場合に必要なまとまった資金が不要となり、その分の資金を運転資金に充てることが可能です。
ただし、リース期間中の総支払額は購入するよりも割高になるため、長期的なコストを考慮して慎重に判断する必要があります。
金融機関からの融資を成功させるためのポイント

数千万円単位の融資審査を通過するためには、綿密な準備が不可欠です。金融機関が何を重視しているのかを理解し、ポイントを押さえた対応を心がけましょう。
ポイント1:明確で実現可能性の高い事業計画書を作成する
事業計画書は、融資審査において最も重要な書類です。なぜこの場所で開業するのか、どのような医療を提供し、どのくらいの患者数を見込んでいるのか、そして、その結果としてどのように収益を上げ、借入金を返済していくのかを、客観的なデータに基づいて具体的に示す必要があります。
診療圏調査のデータなどを用いて、事業の成功確率が高いことを論理的に説明することが求められます。
ポイント2:十分な自己資金を準備して提示する
前述の通り、自己資金は事業への熱意と計画性の証明です。開業資金総額の10%~20%を目安に、コツコツと貯めてきた資金を提示することで、金融機関からの信頼を得ることができます。
通帳のコピーなどを提出し、資金の形成過程を明確に示すことが重要です。
ポイント3:複数の金融機関へ相談し比較検討する
融資の相談は、一つの金融機関に絞らず、日本政策金融公庫、取引のある銀行、開業地の地方銀行や信用金庫など、複数の機関に同時に行うのが基本です。
それぞれの金融機関の担当者からアドバイスを受けることで、事業計画をよりブラッシュアップすることができます。また、複数の金融機関から融資の内諾を得ることで、より有利な金利条件を引き出す交渉も可能になります。
ポイント4:税理士やコンサルタントなど専門家の支援を受ける
クリニックの開業支援を専門とする税理士やコンサルタントは、事業計画書の作成ノウハウや、金融機関との交渉術に長けています。専門家のサポートを受けることで、融資審査を通過する確率を高めるだけでなく、開業準備全体をスムーズに進めることができます。
費用はかかりますが、融資の成功と開業後の安定経営を考えれば、有効な投資と言えるでしょう。
まとめ
クリニックの開業資金は、診療科や規模によって様々ですが、十分な自己資金と実現可能性の高い事業計画書を準備することが成功の鍵となります。日本政策金融公庫や民間金融機関など、複数の資金調達先の特徴を理解し、ご自身の状況に最も適した方法を選択してください。
信頼できる専門家の力も借りながら、計画的に準備を進め、理想のクリニック実現への第一歩を踏み出しましょう。
















