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医療機関の名称には「◯◯クリニック」「◯◯医院」など複数の種類があります。いずれも病気やけがをしたときに訪れる場所という点は共通していますが、実は施設の規模や人員配置、診療内容、料金システムに大きな違いがあるため、開業時には十分な注意が必要です。
本記事ではこれから医療機関を開業する方向けに、病院・医院・クリニック・診療所の違いや、施設ごとの開業時の注意点について解説します。
病院・医院・クリニック・診療所の違い
基本的な違い
役割の違い
料金システムの違い
スタッフの働き方の違い
病院・医院・クリニック・診療所の開業の際の注意点
病院
医院・クリニック・診療所
まとめ
≪病院・医院・クリニック・診療所の違い≫
病院・医院・クリニック・診療所の違いを、4つのポイントに分けて解説します。
基本的な違い
病院・医院・クリニック・診療所の違いについて説明すると述べましたが、実は上記4つのうち、医院・クリニック・診療所の3つについては法的な違いはありません。そもそも医療法では、医療を提供する施設について「病院」「診療所」と記述している一方、医院やクリニックという名称は使用していません。
一方で、施設の名称については、同法第3条の2において、診療所は病院や病院分院、産院、その他病院と間違えるような紛らわしい名称を付けることは禁止しているものの、それ以外の名称について特別な制限を設けていません。[注1]
そのため、診療所の中には医院やクリニックという名称を用いているところも多いようですが、その実態は医療法で定めるところの診療所と同義です。ただし、近年は診療所という名よりも、医院やクリニックの方が親しみやすいという理由から、◯◯医院、◯◯クリニックという名称を選択する事例が増えているようです。
一方、病院と診療所は医療法において明確に区別されており、後述する役割や料金システム、スタッフの働き方にはっきりとした違いがあります。
役割の違い
病院と診療所では、医療施設としての役割に違いがあります。
病院は、医療法第1条の5にて、医師または歯科医師が、傷病者に科学的かつ適正な診療を与えることを主な目的として、公衆または特定多数人のために医業または歯科医業を行う場所です。20人以上の患者を入院させるための施設を有するものと定義しています。[注1]
一方の診療所は、医師または歯科医師が公衆または特定多数の人のために医業または歯科医業を行う場所である、という点は病院と共通しているものの、患者を入院させるための施設を有しない、あるいは19人以下の患者を入院させるための施設を有するものと定義しています。[注1]
つまり、診療所は入院を必要としない軽症患者の対応を主とした施設であるといえるでしょう。実際、診療所では経済面やスペースなどの問題から、検査機器などの医療設備が十分に備わっていないところも多く、重症患者や精密な検査が必要な患者については、より医療体制が整った病院を紹介するケースもめずらしくありません。
一方の病院側も、診療所では対応しきれない事例、例えば緊急対応が必要な患者の受け入れや難病患者の治療、大がかりな手術などを実行できる組織として運営されていることが要求されます。
料金システムの違い
診察や治療などにかかった医療費については、病院も診療所も厚生労働大臣が決めた診療報酬の点数(1点=10円)によって計算する仕組みになっているため、受けた医療行為が同じなら金額に差は生じません。
ただし、特定機能病院や、一般病床数が200床以上ある地域医療支援病院または紹介受診重点医療機関については、初診料や再診料とは別に特別の料金が徴収されます。
特別料金が徴収されるのは紹介状なしで上記の病院を受診した場合です。特別料金は、軽症の患者が大病院を受診した結果、外来が混雑して待ち時間が延びたり、優先的に対応すべき重篤な患者や、救急医療への対応に支障を来したりすることを防ぐための措置として講じられました。
もし特別料金徴収の条件に該当する病院を開設するのなら、料金システムにその旨を明記する必要があります。なお、一般許可病床数が200床以上の病院については、特別料金を徴収するか否かは任意で決められるため、料金を設定する際は注意が必要です。
スタッフの働き方の違い
病院と診療所では、医師や看護師などの人員配置に違いがあります。病院(一般病床)の人員配置の基準は以下の通りです。[注1]
【入院患者関係】
医師16:1
看護職員3:1
薬剤師 入院患者に係る取り扱い処方箋70:1
【外来患者関係】
医師40:1
看護職員30:1
薬剤師 外来患者に係る取り扱い処方箋75:1
一方、診療所(一般病床)については、人員配置に特定の基準はありません。
医師が常時3人以上いる診療所については、専属の薬剤師を配置しなければならないという規定はありますが、それ以外のケースでは医師や看護師、薬剤師の人員配置に制限はないため、医師一人で診察や治療を行っているところも多々存在します。
入院施設のある診療所の場合は看護職員の配置が必要ですが、そうでない施設では医師一人で開業することも可能です。ただし、現実的に受付から診察、検査、治療、会計など全ての業務を医師一人でまかなうのは難しいため、診療所であっても規模に応じて適切な人員を配置する必要があります。
また、診療所は必要最小限のスタッフで運営することが多いぶん、1人のスタッフが受付から会計、レセプト業務など幅広い業務に携わるケースがほとんどです。
院長についても、病院で勤務医として働く場合とは異なり、診療所の経営やスタッフの労務管理、人材採用、行政手続きなどの業務を一人でこなす必要があり、多忙になりがちです。そのため、診療所を開業する場合は患者対応以外の業務に携わるための時間も確保することが大切です。
≪病院・医院・クリニック・診療所の開業の際の注意点≫
病院・医院・クリニック・診療所を開業するにあたって注意したいポイントを、施設ごとにまとめました。
病院
20床以上の病床数を持つ病院は、医院やクリニックに比べると厳しい施設基準が設定されています。また、検査機器をはじめとする医療設備も、診療所より充実させる必要があるため、導入コストがかさみがちです。導入コストが多額になると、開業後の経営が苦しくなる恐れがあるため、事前に念入りなシミュレーションを行い、適切な資金計画を立てることが大切です。
なお、病院では人員配置に規定があるため、施設の規模に応じた人員配置を心掛ける必要があります。
医院・クリニック・診療所
医院やクリニック、診療所は病院に比べると数が多いぶん、新規参入で集客するのは難しい傾向にあります。そのため、クリニックを開業する際はターゲット層を明確にするとともに、周囲にある既存クリニックについて下調べを行い、どの場所でクリニックを開業すべきか、しっかりリサーチしましょう。
立地については交通アクセスの良い場所が理想ですが、駅チカは地価も割高なため、予算を考慮して慎重に検討する必要があります。既存物件を借りる場合は、見込まれる収益とテナント料・賃料を比較し、収支バランスが取れているかどうか確認することが大切です。
スタッフについては、入院施設のない医院・クリニック・診療所なら人数の規定は設けられていないため、ある程度自由に決めることができます。ただし、スタッフが少ないと来院した患者の対応が間に合わないこともあります。特にCTなどの検査機器を導入する場合、受付や看護職員に加え、臨床検査技師の雇用も必要になるため、医療機器を導入する際は人件費も含めて考慮した方が良いでしょう。
資金の問題で必要な人件費を確保するのが難しいという場合は、受付や看護職員をパート雇用するなど、柔軟な採用を検討するのも一つの方法です。
≪まとめ:病院とクリニックの違いを正しく理解しよう≫
病院と、医院・クリニック・診療所では、法的な位置づけや役割、料金システム、人員配置や働き方などに大きな違いがあります。
病院の場合は入院患者の病床数20床以上、かつ診療所では対応しきれない緊急性の高い患者の対応や難病の治療に必要な医療設備の導入、基準を満たす人員配置などに配慮しなければなりません。
一方の医院やクリニック、診療所は病院より開業資金を抑えられるものの、限られた予算内でどのような医療機器を導入するか、スタッフは何人雇用するかなどを考える必要があります。また、個人で開業する診療所は知名度が低いため、広告やブランディングなどの対策も必要です。
このように、病院と診療所ではそれぞれ開業時の注意点にも違いがあるため、専門家のアドバイスも受けながら、医療施設に適した開業計画を進めていくことをおすすめします。