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クリニックの開業準備を進める中で、内装工事や医療機器、採用活動にかかる費用の総額に驚かれる先生は少なくありません。理想の医療を実現するためには妥協したくない一方で、現実的な資金繰りには頭を悩ませるものです。
そんな場面で大きな助けとなるのが、国や自治体が提供する補助金や助成金です。賢く活用することで、返済不要の資金を調達し、経営のスタートダッシュを安定させられます。
この記事では、クリニック開業時に活用できる主要な制度や、申請にあたっての注意点を詳しく解説します。
目次
クリニック開業で補助金や助成金が重要視される理由
多くの医師が補助金や助成金の活用を検討する背景には、単にお金がもらえるというメリット以上の経営的な意義が存在します。
ここでは、開業医が公的支援制度を積極的に活用すべき理由について掘り下げていきます。
【関連記事】クリニック開業の資金はいくら必要?調達方法と自己資金の目安を解説|テナント工房メディカル – クリニックの設計・内装デザインならテナント工房メディカル
初期投資の負担を軽減できるから
クリニック開業における最大の課題は、数千万円から時には億単位にもなる初期投資です。
自己資金や銀行融資だけですべてを賄おうとすると、毎月の返済額が大きくなり、開業直後の不安定な時期における経営リスクを高めてしまいます。
補助金や助成金は基本的に返済が不要な資金であるため、これらを設備投資やシステム導入費の一部に充てることで、借入金の総額を圧縮することが可能です。
結果として、月々の返済負担が軽くなり、損益分岐点を下げることができるため、精神的な余裕を持って診療に集中できる環境が整います。
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項目 |
補助金活用なし |
補助金活用あり |
|---|---|---|
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初期投資総額 |
5,000万円 |
5,000万円 |
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借入金額 |
4,000万円 |
3,500万円 |
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月次返済負担 |
大きい |
軽減される |
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精神的負担 |
資金繰りの不安がつきまとう |
経営に余裕が生まれる |
開業後の経営を安定化させることができるから
補助金や助成金の活用は、単にコストを削減するだけでなく、クリニックの質の向上にも直結します。
例えば、資金的な理由で導入を諦めかけていた高性能な電子カルテや予約システムを補助金を使って導入できれば、業務効率が格段に上がり、患者さんの待ち時間短縮や満足度向上につながります。
また、スタッフの採用や研修に関する助成金を活用すれば、優秀な人材を確保しやすくなり、開業当初から質の高い医療サービスを提供できる体制が整います。
公的支援を有効に使うことは、開業後の集患や経営の早期安定化に向けた投資となるのです。
補助金と助成金にはどのような違いがある?
「補助金」と「助成金」はよく似た言葉ですが、性質や取得の難易度は大きく異なります。混同したまま計画を進めると、受給できると思っていた資金が入らず、資金計画が狂ってしまうリスクがあります。
ここでは、それぞれの特徴と違いを明確にし、どちらをどのように活用すべきかについて解説します。
審査の有無と採択難易度の違い
補助金と助成金の最大の違いは、審査によって受給が決まるかどうかという点です。補助金は予算の上限が決まっているものが多く、申請したすべての事業者がもらえるわけではありません。
提出された事業計画書の内容が審査され、採択された場合のみ受給できる仕組みであり、競争率は制度によって異なりますが、決して低くはないハードルがあります。
一方で、助成金は厚生労働省などが管轄するものが多く、要件を満たしており書類に不備がなければ、原則として受給できる可能性が高い制度です。つまり、補助金は「提案と競争」が必要であり、助成金は「条件適合と手続き」が鍵となります。
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比較項目 |
補助金(主に経産省系) |
助成金(主に厚労省系) |
|---|---|---|
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受給の可否 |
審査あり(採択率による) |
要件を満たせば原則受給可 |
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競争率 |
高い場合が多い |
基本的に競争はない |
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必要書類 |
事業計画書など |
就業規則や雇用契約書など |
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難易度 |
計画策定の難易度が高い |
手続きの正確さが求められる |
管轄省庁と支援目的の違い
それぞれの制度が設けられている目的や背景も異なります。
補助金は主に経済産業省や中小企業庁が管轄しており、国の経済活性化や技術革新、公益性の高い事業を支援することを目的としています。そのため、申請時には「このクリニックを開業することで、地域や社会にどのようなメリットがあるか」という事業としての将来性や革新性が問われます。
対して助成金は厚生労働省が管轄するものが中心で、雇用環境の改善や人材育成を目的としています。
スタッフを正社員として雇用したり、働きやすい環境を整えたりすることで支給されるため、医療機関としての「雇用主」としての側面を支援してくれる制度といえます。
参考:小規模事業者持続化補助金について | 中小企業庁
参考:人材確保等支援助成金|厚生労働省
クリニック開業で使える主な補助金・助成金
クリニックの開業や運営において活用が期待できる制度はいくつか存在します。ただし、制度の内容は年度ごとに変更されることが多く、常に最新の情報をキャッチアップする必要があります。
ここでは、多くの医療機関で実際に活用されている代表的な補助金と助成金について、特徴と使い道を具体的に紹介します。
IT導入補助金で電子カルテや予約システムを導入

IT導入補助金は、クリニック経営において最も活用しやすい補助金の一つです。電子カルテ、レセプトコンピュータ、WEB予約システム、自動精算機などの導入費用の一部が補助されます。
近年は医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されており、特にオンライン資格確認システムやインボイス制度への対応に関連するツール導入には手厚い支援が用意されています。
申請には「IT導入支援事業者」として登録されたベンダーを通じて行う必要があり、開業医自身が単独で申請するものではない点に特徴があります。
採択率も他の補助金と比較して比較的高めであるため、システム導入を検討している場合は必ずチェックすべき制度です。
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枠組み |
対象となるツールの例 |
特徴 |
|---|---|---|
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通常枠 |
電子カルテ |
業務効率化に寄与するツール全般 |
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インボイス枠 |
会計ソフト |
インボイス対応に必要な機能 |
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セキュリティ枠 |
サイバーセキュリティ対策製品 |
医療情報の保護強化に活用 |
医療施設等の設備整備に活用できる設備補助
厚生労働省や各自治体が実施している「医療施設等施設設備費補助金」なども見逃せません。
地域医療の充実を目的としており、へき地での診療所開設や、周産期医療、小児救急医療など、政策的に必要とされる医療機能を持つ施設に対して建築費や設備費を補助するものです。
一般的な都市部でのクリニック開業では対象にならないこともありますが、地域包括ケアシステムに貢献する在宅医療専門クリニックや、特定の医療機能を強化する場合に使える「医療施設等経営強化緊急支援事業」などが公募されることもあります。
ご自身の開業エリアや診療科目が、自治体の医療計画における支援対象に合致するかどうかを確認しましょう。
参考:医療施設等設備整備費補助金交付要綱
参考:医療施設運営費等補助金及び地域医療対策費等補助金の国庫補助について(◆平成10年06月24日発健政第137号)
参考:医療施設等経営強化緊急支援事業について|厚生労働省
人材確保のための雇用関連助成金
スタッフの雇用に関連して活用できる助成金は、手続きさえ確実に行えば受給できる可能性が高く、開業時の強い味方です。
代表的なものに「キャリアアップ助成金」があります。パートやアルバイトなどの非正規雇用のスタッフを正社員化した場合や、処遇改善を行った場合に支給されます。
また、ハローワークを通じて経験の浅い求職者を一定期間試用雇用する場合に使える「トライアル雇用助成金」も、採用のミスマッチを防ぎながら資金支援を受けられるため有用です。
助成金を活用するためには、開業前から労働保険への加入や就業規則の整備を適切に進めておく必要があります。
参考:キャリアアップ助成金|厚生労働省
参考:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)|厚生労働省
クリニック承継に使える事業承継補助金
新規開業ではなく、既存のクリニックを承継して開業する(承継開業)場合には、「事業承継・M&A補助金」(2024年度までは「事業承継・引継ぎ補助金」)が活用できます。この補助金は、M&Aや事業譲渡にかかる専門家の活用費用や、承継後の設備投資、既存設備の廃棄費用などを支援してくれます。
高齢化した院長からクリニックを引き継ぎ、内装をリニューアルしたり最新機器を導入したりする「第二創業」のようなケースで特に役立ちます。第三者承継だけでなく、親子間での承継においても条件を満たせば対象となる場合があるため、承継を検討している先生にとっては非常にメリットの大きい制度です。
参考:事業承継・M&A補助金
【関連記事】医院継承にかかる費用の相場は?新規開業との違いを比較|テナント工房メディカル – クリニックの設計・内装デザインならテナント工房メディカル
個人事業主と医療法人で使える制度の違い

クリニックを開業する際、まずは個人事業主としてスタートするケースが大半ですが、将来的な医療法人化を見据えている場合もあるでしょう。
補助金や助成金の中には、申請できる主体が「個人事業主」か「法人」か、あるいは「医療法人」が含まれるかによって制限がかかるものがあります。この区分を正しく理解していないと、申請要件を満たさずに不採択となる恐れがあります。
申請資格の有無と制限
多くの補助金制度において、中小企業や小規模事業者が支援対象となりますが、医療法人は「会社」とは異なるため、制度によっては対象外となることがあります。
例えば、一般的な中小企業向けの補助金であっても、公募要領の「補助対象者」の欄に「医療法人を除く」と記載されているケースがあります。
一方で、IT導入補助金や雇用関係の助成金は、個人事業主のクリニックでも医療法人でも概ね同様に申請可能です。個人事業主として開業する際は「個人事業の開業届出」を出していることが前提となり、医療法人化する際は法人の設立登記が完了していることが条件となります。
ものづくり補助金の扱い
設備投資に使える大型の補助金として有名な「ものづくり補助金」ですが、医療機関が利用する際には細心の注意が必要です。
基本的にこの補助金は「革新的な製品・サービスの開発」を支援するものであり、保険診療(公定価格で提供されるサービス)は「革新性」や「価格決定権」の観点から対象外とされることが一般的です。
過去の事例では、歯科医院が歯科技工物の製造プロセス改善で採択されたケースなどがありますが、自由診療や特定の技術分野に限定された申請であることがほとんどです。
また、多くの公募回において「医療法人は補助対象外」と明記されているため、医療法人化しているクリニックは申請できない可能性が高いという現状を理解しておく必要があります。
参考:トップページ|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト
参考:よくあるご質問_20250314.pdf
申請から受給までの流れとスケジュール

補助金や助成金は、申請してすぐに現金が振り込まれるわけではありません。実際には、申請から受給までには長い期間がかかり、一時的な資金の立て替えが必要になります。
このタイムラグを計算に入れて資金計画を立てないと、手元の現金(キャッシュフロー)がショートする危険性があります。ここでは、一般的な補助金の申請プロセスとスケジュールの目安について解説します。
1.公募時期と申請の準備
補助金には必ず「公募期間」があり、その期間内に申請を完了させなければなりません。人気の補助金は年に数回締め切りが設けられていますが、予算が消化されると早期に終了することもあります。
まずは自分の開業スケジュールと公募のタイミングが合うかを確認しましょう。
申請準備としては、事業計画書の作成がメインとなります。クリニックの強み、市場分析、収支計画などを具体的に文書化する必要があり、これには数週間から1ヶ月程度の時間を要します。
また、多くの行政手続きで必要となる「gBizIDプライムアカウント」の取得も早めに済ませておくことが推奨されます。
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フェーズ |
行うべきアクション |
所要期間の目安 |
|---|---|---|
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情報収集 |
公募要領の確認 |
1週間 |
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準備 |
GBizID取得 |
2週間〜1ヶ月 |
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申請 |
電子申請システムでの入力・送信 |
数日 |
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審査 |
事務局による審査待ち |
1〜2ヶ月 |
2.交付決定と事業の実施
申請後、審査を経て採択されると「交付決定通知」が届きます。ここで重要なのは、原則として「交付決定前に発注・契約した経費は補助対象にならない」という点です。
例えば、交付決定通知が届く前に内装工事の契約を結んだり、電子カルテを購入してしまったりすると、その費用は補助金の対象外となってしまいます。
必ず「交付決定」を受けてから、発注、納品、支払いというプロセスを進める必要があります。開業スケジュールがタイトな場合、この交付決定待ちの期間が工事やオープンの遅れにつながらないよう、余裕を持った計画が求められます。
3.実績報告と受給の時期
事業(設備導入や工事)が完了し、代金の支払いを終えたら、証拠書類(契約書、納品書、請求書、振込控など)を揃えて事務局に「実績報告」を行います。
事務局はこの報告をもとに、計画通りに事業が行われたか、経費が適切に支払われたかを最終確認します。
確定検査に合格して初めて、補助金の金額が確定し、指定口座に振り込まれます。つまり、実際に補助金が入金されるのは、すべての支払いを終えてから数ヶ月後、場合によっては開業から半年以上先になることもあります。
補助金を見込んで支払い能力ギリギリの計画を立てることは避けましょう。
補助金活用で失敗しないための注意点

補助金は大きなメリットがある反面、制度の仕組みを正しく理解していないと思わぬ落とし穴にはまることがあります。
「もらえると思っていたのにもらえなかった」という事態を避けるために、特に注意すべきポイントを整理します。
【関連記事】成功するクリニック開業!開業までのステップやポイントを解説|テナント工房メディカル – クリニックの設計・内装デザインならテナント工房メディカル
原則後払いを前提とした資金計画を立てる
前述の通り、ほとんどの補助金や助成金は「後払い」です。先に全額を自己資金や銀行融資で支払う必要があります。したがって、「補助金が出るから自己資金がなくても大丈夫」という考えは非常に危険です。
銀行融資を申し込む際にも、補助金はあくまで「後から補填されるボーナス」程度に考え、補助金なしでも回る資金計画を提示することが、融資審査をスムーズに通すポイントでもあります。つなぎ資金が必要になる場合は、その分も含めて金融機関に相談しておきましょう。
申請に専門家の支援を活用する
補助金の申請書類作成や手続きは非常に煩雑で専門的です。多忙な開業準備の中で、医師自身がすべての書類を一から作成するのは現実的ではありません。
また、採択されるための事業計画書には、審査員に響く書き方のコツがあります。
そのため、補助金申請に詳しい税理士、社会保険労務士、行政書士、または認定経営革新等支援機関などの専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。
ただし、中には高額な着手金や法外な成功報酬を要求する悪質なコンサルタントも存在するため、信頼できる医療専門のコンサルタントや、顧問契約予定の税理士にまずは相談するのが安全なルートです。
まとめ
この記事の要点をまとめます。
- ・クリニック開業時の資金不安を解消するために、補助金・助成金の活用は非常に有効な手段。
- ・IT導入補助金やクリニック承継に使える事業承継補助金、各種雇用系助成金が主要な選択肢となる。
- ・補助金は「後払い」が原則であり、交付決定前の発注は対象外となるため、スケジュールの管理が成功の鍵。
補助金や助成金は、国や自治体が「このような医療環境を作ってほしい」「雇用を守ってほしい」というメッセージを込めて用意している制度です。
これらを活用することは、先生ご自身の理想のクリニックを実現するための近道となります。まずはご自身がどの制度の対象になるのか、専門家に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
情報収集を早めに開始し、余裕を持った資金計画で開業準備が進むことを応援しております。














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